同盟物語第14話:灰燼の英雄と最後の戦い ―第二章 不死鳥―

 今回は、同盟物語第7話で「灰燼の英雄と最後の戦」を語ってくださったサーバー55のゆきぞーさんより、続編となる第二章「不死鳥」をいただきましたので、お届けいたします。

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灰と化した戦場では、燻った火が其処彼処に散らばっていた。やがてその小さな火は再び勢いを増し、雄大な炎を纏った不死鳥へと生まれ変わる。不死鳥は勇猛果敢な虎を引き連れて天を目指す。

 

「姉ちゃーん!もう一杯くれー!」

「おい、お前飲み過ぎだって。」

「いいだろー。たまの休みぐらい。ま、年がら年中休みみたいなもんだけどな!ガハハハ…」

山東で産声を上げた火ノ鳥・不死鳥同盟。新しい仲間も加わり、順調に勢力を伸ばし領民は笑顔でいっぱいだった。

「いらっしゃいませー!お兄さん、いい反物仕入れましたよー!いかがですかー?」

「こっちも見てってよー!今金がお買い得だよー!」

街が賑やかだ。こんな生活がずっと続けばいいのにと考えてしまう。仲間と楽しくお喋りをしている時は、誰にとってもかけがえのない時間だろう。ただ、忘れてはならない。あの日の想いを、あの日の屈辱を…。不死鳥には成し遂げなければならない夢がある。譲れない道がある。たとえこの幸せな生活を犠牲にするような事があったとしても、その先…洛陽に本当の幸せがあると信じている。

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西涼や巴蜀では大きな戦いが早くも始まっていた。山東の情勢はというと、小競り合いは幾度かあったものの、火ノ鳥・不死鳥連合と猛虎軍の二大勢力が平定した。穏やかな日々が続いていた。平和な時間が長くなり、戦いが身近でなくなってきたある日に、先への道が不安になった者が言った。

「うちはまだ動かないんですか?!」

一度戦争に入ってしまえば、栄華な未来だけではなく、没落の道を辿る可能性も充分に有り得る。盟主は悩んでいる。

「今はご自身の鍛錬、内政に集中してください。もっともっと大きな舞台でその時は必ず来ます。」

きっと盟主も苦しかっただろう。盟主は同盟の道標を示すと共に、すべての選択に責任を負わねばならない。毛頭、何が起ころうともそのすべての責任を負わすつもりもないが、それだけの重圧は確かに存在する。

そして所変わって江東を統治していた光輝が荊楚をも平定。あの爆走猫軍団さえも吸収し、最大勢力となっていた。その光輝が今まさに江漢への進行を始めようとしていたのである。これに対抗するには一刻も早く博望の関を打ち破り、こちらも江漢へ進出する必要があった。

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数日後、博望へ挑戦するが失敗に終わた。初めての挫折を味わうが、嘆いている暇はなかった。明くる日再度攻城。資源州入りは当初の予定より遅れたものの、先鋒の一角として猛虎軍と共にめでたく江漢へと入り、そしてここで資源州で唯一の懸念だった光輝と友好を結び、江漢の領土を分け合うこととなる。洛陽までの不戦条約だった。南陽郡に火ノ鳥・不死鳥、襄陽郡に猛虎軍が城を構える。その間、関中では河北連合・戦乙女の河北連合軍に対し、大三元・涼州Rev・千鬼夜行・ほろ酔いの西涼・巴蜀連合軍による大きな戦いが行われていた。戦況は徐々に河北勢の劣勢に傾き、その道程、光輝はこの戦いに割って入ろうという姿勢を見せており、さらなる勢力拡大を目論んでいた。このままでは例え友好関係にあっても、最終目的である洛陽を占拠される事は目に見えていた。

盟主から連絡が入る。

「1.光輝を阻止する為、開戦する。

2.このまま江漢からの司隸入りも狙いつつ、河北へ侵攻し、河北からの司隸入りを目指す。

3.光輝に洛陽を取られる覚悟で現状のまま進む。

皆様、どちらがよろしいか?」

各々の意見を出し合い、盟主筆頭に幹部方の話し合いが持たれた。

翌日、光輝との盟約破棄、そして開戦の一報が入り、苦渋の決断だった。この道が誰にとっても茨の道であると、盟主のみならず皆が理解していた。この選択が大義あるものかすらわからなくとも、例え裏切り者だと罵られようとしても、それでも尚、天下への道を突き進む事が我等にとっての正義だった。

そしてもうひとつ開戦と同時に決まったことがある。それは猛虎軍との一蓮托生だった。「山東の剣・山東の雄として、最後まで共に」と覚悟を決めた瞬間であった。

 

…これが終わりなき戦いになるとは、この時はまだ誰も知らない…。

 

戦線は開戦と共に大きく分けて4つ。

関中へと続く関である上洛。ここには光輝に加勢したほろ酔いの部隊も存在し、ここが最注力地であり、強者達の戦場となる。

次に南陽郡の最南東、江夏郡との境界線である埠頭。東には光輝の領地が広がっている。

そして南郡と荊楚を隔てる関、公安港。南郡は光輝の領地として約束されていた為、周りは敵領地ばかりの厳しい戦線だが、荊楚にいる同盟員と繋がる道はここにしかなく…。

最後に南陽郡南端、臨沮がある東西どちらも橋が架かる半島の東側埠頭。ここは自身の主城の目と鼻の先であった。埠頭から前を眺めれば敵の主城が見え、集まる敵の軍勢すらも、奇しくもひとつの戦線の最前線部隊となったのである。

「救援要請!救援要請!至急兵を回されたし!」

「今が攻め時!押し返せー!」

「目標城包囲しました!攻城に入ります!」

「埠頭来たぞー!絶対に防衛せよ!」

「進め進めー!!」

「ダメです!自軍部隊壊滅しました!」

「もうすぐ援軍が到着する!なんとか持ち堪えろ!」

「別部隊確認!偵察兵を送る!」

「奇襲部隊だー!撤退ー!撤退ー!」

「ここは退けん!!押し通せー!」

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どれだけの月日が経ったろう。戦線も奪われたものもあれば奪ったものもある。先の見えない長い長い戦いだった。

と、ここで盟主が賢明な判断を下す。

この激戦の中、司隸との関である析県を落とすと言うのだ。戦線を守りつつの攻城は容易な事ではない。だがその時点で戦いを終えた関中勢が司隸を独占していたのである。これ以上の遅延は覇業達成の不可を意味するものであった。

そしてすぐさま析県の攻城。

戦線厳しくも析県攻城は無事成功し、猛虎軍が司隸へと進入する。そしてしばらくの後、隣の関である武漢を攻城しこちらからは不死鳥が立ち入る。

そして目の前に現れる大三元。後ろには涼州Rev、加えて千鬼夜行が控えていた。

宣戦布告もなく始まる戦いのその先には、洛陽が存在していた。

しかし先にも言った通り司隸内には複数の同盟がある。江漢には光輝・ほろ酔い。どちら共に相手するには大きく分が悪かった。そして決断する。ただただ前に進む事を。

江漢を捨て、司隸へ続々と皆が遷城していく中、火ノ鳥・不死鳥連合はここで別れる。火ノ鳥と、そして遠い地から駆け付けてくれた鬼神島に山東を任せ、不死鳥が司隸、そして洛陽を目指す。

ここから山東は徐々に光輝の進軍を許していく。孤立した山東を救うべく地獄の底から這い上がった河北連合の有志達が、山東の州府・許昌を背水の陣で守る。すべては不死鳥を羽ばたかせる為だった。

司隸でも厳しい戦いは続くが、爆走猫軍団、戦乙女、河北連合、雲外蒼天から流浪の身になっていた猛者達も集い、司隸に戦力を集中した不死鳥・猛虎軍の連合軍は順調に進撃を続ける。そして洛陽までの最後の関、虎牢関前まで辿り着くのである。

「本日、虎牢関を攻め落とします。皆で洛陽にいきましょう!」

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運命の時が訪れる。

この日の記憶は定かではない。ただ興奮と期待と少しばかりの不安が共存していた。

すべての部隊を兵器仕様に変え、全軍を虎牢関に向かわせる。いままで蓄えてきた力をこの一瞬に注ぐ。駐城部隊に加え、敵の精鋭部隊が虎牢関を守るものの、圧倒的にこちらの軍勢の数が上回っていた。弥が上にも高まる期待。皆の目は既に虎牢関の先に向いていた。しかし…

敵の精鋭部隊に負けことごとく撤退していくこちらの兵器部隊。数は圧倒していたものの、関を突破しなければならなかった為こちらの半数は兵器仕様の部隊なのだ。そんな事が繰り返され、こちらの進軍が鈍る。こんなにも守り手がいる関の攻城が難しいとは…。

「攻城中止ー!」

これ以上の損失は虎牢関前の戦線にも影響する。唇を噛み締めながらの盟主の指示だった。

虎牢関攻めは失敗に終わり、重い空気が流れる。これで終わりかとも感じられるような空気だった。そんな中、一人の猛将の言葉が静寂を破る。

「何をそんなに下ばかり向いておられる!ただひとつの関が抜けなかっただけであろう!そんなことで洛陽を諦める腰抜けなんぞ、ここにはおらん!!そうじゃろう?」

「当たり前だ!」

「この身体朽ちるまで戦ってやるわ!」

「お前さんこそ、敵部隊を前にしてビビっておったろう?」

「なにをぅ!」

士気が戻ってくる。まだ諦める者は誰もいない。

「不死鳥は三度蘇ります。」

そうだ、今再び炎を纏い飛び立つのだ。

虎牢関前、そしてすぐ近く東の埠頭である孟津の関前をもう一度固める。

ここで特命を拝受し、孟津攻略の為に一時的に猛虎軍へ移籍する事となる。特命の為ではあるが一時的に無所属となったその時は、今までいた場所がとても強大なものに見え、悍ましく感じられる程だった。

敵も強大だが、こんなにも味方が頼もしく力強いものだったとは。離れて初めて気付かされる。その時は戦場にいながらにして、嬉しさと安堵感、そしてただひとりという寂しさと不安。色々な感情が入り混じった不思議な気持ちだった。

しかし翌日、早くも同盟加入手続をする頃には既に敵全軍からの猛攻を受け、虎牢関東及び孟津前の領地の大半が敵領地に変わっていた。西側のみの戦場だった猛虎軍も東側に戦線を広げるが、敵軍を引き留める事で精一杯だった。そしてジリジリと戦線は後退していき、数日後には虎牢関さえはるか遠くになってしまっていた。

厳しい戦況の中、兵糧も枯渇し、兵士の士気も下がる一方、このままでは部隊もろくに進軍できず、今度は餓えとの戦いが始まる。新規領地開拓の目星はなく、友軍に援助を頼るしかなかった。

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「おひさしゅう!」

「おぉ、元気そうで何よりじゃ!」

「貴殿のご活躍、常々耳に致し感服しておりまする。」

「そうか、そうか。そんな言葉を貰えるとは嬉しい限りじゃのぅ。ただ、此度の戦、少々難儀であるな…もう米も充分に食えんわ。」

一瞬の沈黙…それはそうだ。この戦いによって、皆の領地は激減。自分同様の苦しみを抱えている者達ばかりだ。それでも…今一人、また一人と倒れていく者を思い浮かべる。それでも皆を守る為には頼る他なかった。

「無理を承知でお願いがございます。どうか、どうか我が軍に兵糧を譲って頂きたい。」

「そうか…。」

次に出てくる言葉が怖くて仕方なかった。ほんの数秒がとてつもなく長い時間に感じられた。

「うむ。困った時はお互い様だ!よう言ってくれた!!」

「おい!米を用意せい!」

なんの迷いもなく出てくる温かい言葉に、感情を揺さぶられる。

「辛かったな…なぁに、大丈夫。もう一踏ん張りだ。こちらの事は気にするでない。共に勝鬨をあげようぞ!」

「ご厚意賜り、感謝の言葉もございません。このご恩は必ず…」

下げた頭を上げる事ができなかった。涙で濡れた汚い顔面を見せる事はできなかった。

 

人とは自身が困窮した時に本来の自分の性が出ると聞く。何よりも大切にしている物を譲ってほしいとの願いだ。一蹴されてもおかしくはない。だが…

どうして同志達は皆こんなにも温かいのだろう。床に落ち続ける涙は小さな水溜りになっていた。

「またいつでも来い!苦楽は共にじゃ!ハッハッハッ…」

「ありがとう…ござい…ます」

嗚咽を堪え放った言葉は、言葉になっていなかったかもしれない。

そして、ただただ時だけが過ぎていくこの混戦模様に、猛虎軍盟主は重大な決断をする。

「猛虎軍を解散します。」

この混沌とした情勢を打破する為に、同盟解散へと舵を切ったのだ。

確かに不死鳥合流とそして放浪軍化によって、新しい道が開けるかもしれない。

ただ、今まで共に戦ってきた者達と一緒に過ごしたその場所を、無に帰すというのである。開戦の時より遥かに苦渋の決断だったろう。たかが一時的に在籍した自分ですら、とても深い悲しみが心に刻まれた。

そして猛虎軍は解体。同盟員はそれぞれの道へ進む。形としては猛虎軍は消滅したが、皆の心には猛虎の魂が宿っていた。自身にもその魂を引き継ぎ、不死鳥へと戻る。「必ず洛陽での再会を」と心に誓って…そして時を同じくして猛虎放浪軍が生まれる。もしかしたら猛虎軍にも不死鳥の魂が宿っていたのかもしれない。不死鳥は三度蘇る。猛虎もまた蘇ったのだ。あるいは猛虎軍に伝わることなく、伝説の奇跡だったのかもしれない…。

七対子、百花繚乱、龍神衆に加え、乾坤一擲、放浪戦乙女、猛虎放浪軍…放浪軍と化した名だたる名将達を味方に付けた不死鳥は再び羽ばたく。なんとあれだけ苦戦していた虎牢関前の戦線を押し返し、孟津前へも到達。一度虎牢関を攻めたあの日のままに、千載一遇の時を迎える。

「本日孟津を攻城します。」

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今度は虎牢関前の戦線を維持しつつ、函谷関からの進入を目指す。

まるで一夜城かのように現れる幕舎群。敵軍の行路を阻む為、皆で一致団結の建築だった。そして孟津への攻城が始まる。駐屯部隊はいたものの、援軍さえ来なければさほど難しい攻略ではなかった。虎牢関の悲劇はもう二度と起こさせはしない。孟津は不死鳥の領地となった。

すぐさま函谷関へ向けて進軍。

途中、敵対放浪軍の抵抗があったものの、羽ばたいた不死鳥を止められるものはなかった。

しかし、天は我々を嘲笑うかのように、ここで厳しい現実と直面する。光輝による析県攻城の一報。析県は放浪軍に明け渡していた為、派兵する事も駐屯する事もできない。司隸を守る為に残された手段はただひとつ。

同時攻城だった。

運を天に任せ、江漢側から攻城する光輝に対抗し、司隸側からの攻城を行う。もはや祈る事しか術はなかった。

しかし天に祈り届かず。析県は光輝のものとなる。析県を得た事により光輝は司隸への道を獲得したのである。これは不死鳥にとって洛陽への道が閉ざされた事を意味していた。早くも放浪軍へ行く者、他同盟への移籍を決断する者が現れる。と、そんな中、想定外の出来事が起こる。

光輝の戦争不介入声明があったのだ。そして水面下で行われる密談。光輝もまた洛陽への道を模索していた。

諦めかけた夢の続きを、ただ我武者羅に見続ける事しか自分にはできなかった。虎牢関前を守りつつ、函谷関を目指す。

孟津から西へ進み、最初の城、河内を通り過ぎ函谷関側にほど近い城東垣。ここを函谷関への足場にすべく、攻城を決める。そして攻城まであと数時間と差し迫った時、またしても予想だにしない出来事が起こる。

光輝の再侵攻。

まるで勝利の女神に弄ばれているかのように感じられた。光輝との交渉は決裂し、不死鳥の領地は光輝に奪われ始める。

そして、二度と忘れることのできない、運命と言うにはあまりにも簡単すぎる、悲しみに満ちた一日が始まる…。

「洛陽への約束叶わず申し訳ない。不死鳥は解散となります。」

こんな時が来るとは考えもしていなかった。この場所のまま、この仲間と共に前に進み続けることはもうできない。

放浪軍となり、洛陽を目指すのか、はたまた別同盟へ移籍し、その力となるか、そしてそのまま立ち止まる事もまたひとつの道だと盟友が教えてくれた。

猛虎軍解散の時と同様に、皆自分自身で行く先を決断せねばならなかった。それぞれがそれぞれに旅立っていく後ろ姿をずっと見守っていた。

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悲しみに暮れていた中、敵対同盟であった涼州Revの旧友から連絡が入る。

「我等と共に歩もうぞ!」

しかし放浪軍で待ってくれている仲間もいた。自身を必要とする者がいるなら、その力になりたい。限られた時間の中悩み抜いた末、涼州Revへの移籍を決断する。

終焉を認めるしかなかった。どれだけ気持ち溢れようとも、この結末に納得がいかぬとも、洛陽までの終わりなき道と感じていたこの厳しくも充実した日々は、自身の移籍と共に終わったのである。

だが、何度も言うが、不死鳥は三度蘇る。不死鳥は完全に息絶え灰燼に帰した。

…それでも不死鳥が羽ばたいたその時に散った火種が、放浪軍の魂に火を灯す。放浪連合軍は函谷関とその先、洛陽を目指す。

そして…大きな目標を失った自分は干からびていた。迎え入れてくれた同盟、そして同盟員に返せるものは何もなかった。

その姿を見た元盟主は言う。

「いま自分がいる場所の仲間の事を第一に考えよ!甘ったれるな小僧!私達がそれで裏切り者とでも思うと思うか!そんな奴はおらんぞ!正々堂々と戦ったらよろし!!」

殻に閉じこもっていた自分を引き出すには充分な言葉だった。自身が不甲斐なく思え、苛立ちさえ覚え泣き叫ぶ。

そして自分は生まれ変わる…

鳳翅黄金甲を身に纏い、不死鳥の魂宿る放浪軍といま対峙する!

 

おしまい

 

Special thanks 稲妻さん

 

同盟物語第7話はこちらをご覧ください:

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